SEOはアメリカを殺すのか?

公開日:2012/02/28

最終更新日:2024/02/17

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おいおい、そんな大袈裟な話もないだろう、と突っ込んでしまいたくなるタイトルですが、あのサーチエンジンランドに掲載された記事ということで気になり訳してしまいました。内容はメディア論寄りの話になっていますので、SEO業界の与太話を期待している人は読まない方が良いかも。ジャーナリズムの未来に興味がある人には考えさせられる記事かもしれません。先にこの記事を読んでおくと理解が深まります。 — SEO Japan

先週、“ツールズ・オブ・チェンジ”カンファレンスで、新書「インフォメーションダイエット」が発売されたばかりのクレイ・ジョンソン氏が、キーノートスピーチを行った。このキーノートには「SEOはアメリカを殺しているか?」と言うタイトルが付けられていた。やれやれ。検索業界にある程度の期間関わっているなら「またか」と思うはずだ。前にも同じことがあったはずだ1回、もしくは2回

Clay Johnson

ジョンソン氏は私の友人であり、私は既にこの本を読ませてもらっている(かなり面白い)。そのため、SEOが実際にアメリカを殺すまでの害を与えていると同氏が本気で考えてはいない点も、そして、同氏がこのリンクベイトなタイトルに私達が飽きていることを知らない点も私は承知済みだ。

また、ジョンソン氏が行ったキーノートは、SEOがアメリカに害を与える仕組みを説明するものではなく、以下の2点に焦点を絞っていた:

  • 楽しませてもらい、そして、自分が正しいことを伝えてもらいたい文化がアメリカには存在する。報道機関にとって、市民を教育し、異議を申し立てるニュースよりも、私達の意見を再確認するニュースを売る方がよっぽど楽である。
  • 報道機関はページビューを増やす必要があるため、「AOL方式」等の方針により、人気の高い検索クエリでは、事実の究明を目指すジャーナリズムが犠牲になる。

クレイ氏のプレゼン(および書籍)は前者を主に取り上げているが、私が興味を持っているのは後者である。キーノートの中で、ジョンソン氏は、私達が検索およびクリックを使って望む情報を散布していると述べていた。その結果、ニュースサイトの“最も読んだ人が多い記事”モジュールで人気を高めたコンテンツをその他の人達も読むようになり、コンテンツのクリエイター達は検索の量を基に人気の高いトピックの記事を作成するようになった。問題は、私達が自分達にとって良い記事を常にチェックしているわけではない点、そして、楽しめる記事を求めればそれだけ、それしか手に入らなくなってしまう点である。

同氏はメディアのSEOへの焦点の例として、「AOL方式」および検索データを使ってトピックのトラフィックのポテンシャルを特定して、取り上げるトピックを決定する方法を挙げ、これが最高のニュースの記事において障害となる可能性があると指摘している。

個人的には、この主張はSEOがスパムだと指摘する主張の新たなバリエーションに過ぎない思う。スパムはスパムであり、SEOのプロセスに大量に詰め込むようでは、SEOとは言えない。人気の高い検索用語を基にコンテンツを作成する行為もSEOではない。書籍「Marketing in the Age of Google」(グーグルの時代におけるマーケティング)の中で、私はこの問題を大きく取り上げ、スパマーの戦略がSEOの戦略として誤解を招いているものの、この用語を取り戻すのは手遅れかもしれないと述べた。私は次のように指摘した:

検索獲得戦略をより総体的な事業戦略に導入する方法を挙げていく:

  • 検索データを使って、効果的な製品 & コンテンツ戦略を構築する。
  • 検索ユーザーの行動を理解し、顧客満足度を最大限に高める検索ユーザーの特徴を構築する。
  • ウェブサイトではなく、検索ボックスから始まることが多い顧客獲得ファネルを理解する。
  • 自然な検索とその他のマーケティングの取り組みを統合する。
  • 検索エンジンに適切にサイトをクロール & インデックスしてもらい、検索ユーザーが見えるようにするための技術的な構造をサイトに構築する。

検索データの問題は、ジャーナリズムに関連しているため、ナショナルプレスクラブのワークショップの期間中に私は徹底的に調査した。この問題には少なくとも3つの要素が絡んでいる:

  • 検索データは、オーディエンスが何に興味を持っているのかを把握し、彼らのニーズを満たす上で貴重なデータと言える。
  • 検索データは、コンテンツのクリエイター(ジャーナリストを含む)にとって、最大のビジビリティを手に入れるために、検索ユーザーとどのようにしてつながりを持つことが出来るのかを理解する上で重要である。
  • 事実の究明を目指すジャーナリズムは不可欠ではあるが、検索が読者に接触する上で最初のチャンネルとしては最善とは言い切れない。

検索データの利用

生活のあらゆる点に共通することだが、検索データを良い目的で利用することも悪い目的で利用することも出来る。例えば2011年のスーパーボウルの開始時間に、新興ウェブメディアのハッフィントンポストが関連するサーチクエリのあらゆるバリエーションを繰り返すだけの記事を作成することで、グーグルを存分にスパムした件は有名である(註:検索数が多い「何時にスーパーボウルが始まるか?」と同じタイトルの中身の薄い記事を検索上位に表示させトラフィックを集める目的で書いていた)
。この記事は有益な情報を全く提供していないだけでなく、スーパーボウルの視聴者が、ニュースサイトと考えられているハッフィントンポストがサイトの重要なターゲットとしてふさわしいのかについても、あるいはその日のニュースを伝えるためのページビューにスポットライトが当てられていたのかについても疑問が残った。

しかし、2012年の最新のスーパーボウルでは、試合のスケジュールを知りたい人達のためにNFLは特別なページを作成していた(註:NFL自体が前述のハッフィントンポストのような「何時にスーパーボウルが始まるか?」というページを提供していた)。NFLは同じ検索データを利用していたものの、NFLのターゲットのオーディエンスの要望に応えていたと言えるだろう。ページビューを稼ぐことが目的ではなく、視聴者と向き合い、サイトの他のコンテンツを利用してもらうことが目的であった。私は、先日検索およびソーシャルメディア部門を統括するため、NFL.comに加わったジョン・コール氏に話を聞いた。コール氏は、ユーザーのテストを行った結果、ターゲットのユーザーは、ページに加えた詳細な情報を介して試合のスケジュールを遥かに早く見つけることが出来ていた点が判明したと述べていた。これが検索データの完璧な利用例だと思う。オーディエンスが求めていることを探し出し、彼らの疑問に答えるのだ(オーディエンスを満足させ、ブランドと引き続き交流してもらう)。

人気の高いトピックに関するページを作ってページビューを稼ぎ出す試みは、検索データが使えるが故に行われているわけではない。このタイプの報道は、ずっと前から存在し、また、オンラインメデイアは創造性に対する新たな機会を与えている。例えば、数日前の記事を探すと、次の一連のヘッドラインが飛び込んで来る:

MIA Super Bowl

なぜM.I.Aはスーパーボウルで中指を立てたのだろうか?このページをクリックすると、次の記事が表示された:

MIA Super Bowl

エンターテイメント・ウィークリーは、このストーリーを出来るだけ多くのキーワードで投稿しており、確実にハッフィントンポストの戦略を利用している。それでは、記事の内容はどうなのだろうか?なぜM.I.Aが中指を立てたのか分かるのだろうか?

MIA Super Bowl

この記事を読んでも分からない。

ターゲットのオーディエンスに見てもらうこと

昔は、新聞紙が郵便受けに届き、朝のコーヒーを飲みながらページをめくり、ヘッドラインをザっと読んでいくのが普通であった。コルセット(またはシルクハットをかぶっていた人もいるかもしれない)を着ていた時代だ。しかし、時代は変わった。現在、ニュースを読みたいときは、グーグルニュース等のオンラインソースを訪問するか、もしくは知りたいことを直接検索する。ニュースアイテムの検索の量を調べれば、この点はすぐに分かる。例えば、[healthcare reform]のクエリの検索の量を以下に掲載する:

Google Insights for Search

ジャーナリストは、この検索データを使って読者がこのトピックについて持つ疑問に答えるだけでなく、読者がコンテンツを求める際に、ニュース記事が表示されるように、読者の言葉で文章を綴る必要がある([Gaddafi]の各種のスペルガイドを見れば、スペルの変化がもたらす大きな違いは分かるだろう)。 ヘッドラインが読者が記事を求めるやり方にマッチする記述的ワードを含むように工夫する取り組みは、スパムでもなければ、アメリカを攻撃しているわけでもない。

この取り組みは、適切な検索に対してニュースの記事を表示してもらえるだけでなく、ニュースサイトやアグリゲータサイト上でヘッドラインをクリックしてもらう上で効果があるのだ。

真実を求めるジャーナリズムについて

真実を究明するジャーナリズムは一筋縄ではいかない。ストーリーがブレイクするまでは、誰もその情報を検索しない。しかし、そもそもニュースをどのように流行らせるのだろうか?間違いなく、このタイプの報道は、広めるのが難しい。新聞紙が郵便受けに届き、コルセットを着る時代の方が楽であった。人々が情報を求めているトピックを取り上げる方が遥かに楽に思える。私はジョンソン氏に、誰も検索していないストーリーに対して、ジャーナリストが読者を獲得するにはどうすればいいのか尋ねてみた。すると次のような答えが返ってきた:

「真実を究明するタイプのジャーナリストが持つことが出来る最高のアセットは、強力なソーシャルネットワークだと私は考えている。しかし、通常は、ジャーナリストが既に情報を流通する手段を持っている点を忘れてもらいたくはない。今でも新聞を読む人達は大勢いるのだ。nytimes.comに大勢の人達がアクセスしている。」

さらに同氏は、このようなストーリは好奇心を掻き立てると指摘していた。メディアが取り上げる話題、そして、出来事について説明するために用いる言葉は、何を検索するのか、そして、どのように検索を行うのかに直接インパクトを与える。記事が一度ブレークすると、その記事に関する情報を求めて検索が行われるようになる。

考え方によっては、SEOはアメリカに害を与えているのではなく、アメリカに情報を与える続ける上で役に立つ可能性があるともいえるのではないだろうか。


この記事は、Search Engine Landに掲載された「Is SEO Killing America?」を翻訳した内容です。

いわゆる「ページビュージャーナリズム」について改めて考えさせられる記事だったでしょうか。日本ではそもそもウェブの新興メディアの力がまだまだ弱すぎるという側面もあると思いますし、テレビの視聴率戦争の話を聞いたりニュース番組の内容を見ていてもネットのページビュージャーナリズムレベルのことはとっくの昔に実践済みのようにも見えます。

米国の大手新興ウェブメディアの編集室ではスタッフが見えるように置いてある大型モニターにリアルタイムでページビューの多い記事の名前がストリーミング表示されており、編集者やライターの競争心を煽らせて記事を書かせているそうですし、ライターにその記事が得たページビューに応じた支払いをしているウェブメディアも多くあります。大手新聞社のウェブメディアでさえスタッフにウェブ版の記事の検索エンジンを意識したタイトルの付け方を当然のように指導しているようですし、この記事もある種のリアリティや問題意識を持って読むことができます。そういった状況に対する危機意識が持たれている中で今回のような記事も出てくるのだとも思いますが(タイトルはともかくSEOの怖さと可能性両方を語っている内容ですが)、さて日本ではいつか「SEOが日本を殺す?」と名付けられてもそれなりに納得して読めるような状況が来るのでしょうか。 — SEO Japan

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アイオイクス SEO Japan編集部

2002年設立から、20年以上に渡りSEOサービスを展開。支援会社は延べ2,000社を超える。SEO/CRO(コンバージョン最適化)を強みとするWebコンサルティング会社。日本初のSEO情報サイトであるSEO Japanを通じて、日本におけるSEOの普及に大きく貢献。

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