ウォールストリートジャーナルの記事によると、グーグルが、より多くの直接的な答えを提供し、言葉の意味をさらに深く理解するための“意味的”な知性を得る、同社のウェブ検索において過去に例を見ない大きな変更を行おうとしているようだ。私は混乱した。なぜならグーグルは既にこの取り組みを行っているからだ。私にはグーグルが自社のPRを制御することが出来なくなってしまったとしか思えなかった。
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この記事は次のように指摘している:
今後の数ヶ月間で、グーグルの検索エンジンは、青いウェブリンクのリスト以上のアイテムを提供するようになる。また、検索結果ページの上部にクエリに対してさらに多くの事実、そして、直接的な答えも提示するようになる。
そして:
グーグルは、「セマンティック検索」と呼ばれるテクノロジーを統合することで、より関連する結果を提供することを目標にしている。「セマンティック検索」とは言葉の意味を理解するプロセスを意味する。
さらに:
先日行われたインタビューの中で、グーグル検索を統括するアミット・シンガル氏は、グーグルの検索エンジンは、大量の「エンティティ」- 人、場所、物事 – を含むデータベースを使ってクエリによりマッチする検索結果を提供すると述べていた。また、グーグルはこのデータベースを過去2年間にわたって密かに蓄積してきたようだ。セマンティック検索は、例えば、企業(グーグル)とその設立者(ラリー・ペイジ氏とセルゲイ・ブリン氏)のように、異なる単語を関連させる上で役に立つ。
これ以上の引用は避けたいので、記事全文を読んでもらいたい。しかし、何度か目を通してみたが、未だに何が新しいのか分からない。
グーグルは2003年から間違いなくセマンティックな検索を提供してきた。当時、グーグルは実際に入力されたワードの類義語を検索する機能を導入していた。グーグルは、ワードの意味の理解度を数年かけて高め、さらには、2010年にブログのエントリで詳しく説明していた。2009年のエントリの一部を以下に掲載する:
本日より、グーグルは検索に関連する関係とコンセプトをより高度に理解することが可能な新しいテクノロジーを導入します。そのアプリケーションの一つにより、さらに有効な関連する検索を提供することが出来るのです(用語は検索結果のページの下、もしくは上に表示されることがあります)。
例えば、[principles of physics](物理学の基礎)を検索すると、グーグルのアルゴリズムは、ユーザーが必要としている情報を見つける上で役に立つとみられる関連する用語として、「angular momentum」(角運動量)、「special relativity」(特殊相対性理論)、「big bang」(ビッグバン)、そして、「quantum mechanic」(量子力学)を理解するのです。
ウォールストリートジャーナルが指摘する「事実と直接的な答え」を「提供」する点に関してだが、グーグルはいつ始めたのか分からないほど随分前から実施している。
2009年に投稿した「グーグルのワンボックス、プラスボックス、ダイレクトアンサー & 10 パックを紹介」は、様々な検索に応じて直接的な答えが提供される仕組みを網羅しており、また、答えの多くはこの記事を投稿する何年も前から既にグーグルに導入されていた。
UPS & FedExの追跡レポート、フライトの状況の最新情報、ビルトインの計算機等は、2004年に導入されている。映画の情報と株価については、2005年に始まっていた。音楽と天気は、2006年から提供されている。スポーツのスコアにおいては2009年に始まっていた。
2005年に投稿された「事実だけを、早く」に関するブログの記事の一部を掲載する:
すぐに情報が必要でしょうか?本日、グーグルはグーグル Q & Aを導入します。
グーグルはウェブ上から事実を集めて、毎日必要としている情報に出来るだけ早くアクセスすることが出来るように支援します。検索ボックスにクエリを入力するだけで、検索結果の上部に答えが表示されます。Q&Aは様々な分野を理解します: セレブ、世界の国々、惑星、成分、電子、映画、そして、グーグルが考慮したその他の分野(モバイルデバイスでも答えを得ることが出来ます)。
試し、そして、何度も戻ってチェックしてもらいたいです。これはほんの序の口です。
ページから事実を抽出して、電話を発明した人物、または、映画が公開される日等を把握する試みについては、グーグルは、2010年にグーグルスクエアードのテクノロジーを介して理解することが出来るとして、大げさに宣伝していた。グーグルブログのエントリはここで確認してもらいたい。そして、次のサーチエンジンランドのストーリーでもこの話題を取り上げている:
ちなみに、グーグルはセレブの性的指向等の事実も提供していたが、このサービスは、昨年終了していた。
率直な感想を言わせてもらうと、グーグルはグーグルスクエアードのテクノロジーを介して表示する結果、そして、フリーベース / メタウェブの買収を行って以来構築してきた結果を増やそうとしているように思える。ウォールストリートジャーナルは、後者には触れているが、グーグルスクエアードには言及していない:
しかし、最も新しい変更は、さらに高度な変更になると見られている。これは、2010年にスタートアップのメタウェブテクノロジーを買収した結果である。メタウェブテクノロジー社は映画、書籍、企業、そして、セレブ等、1200万のインデックスを抱えていた。
シンガル氏は、当時約50名のソフトウェアエンジニアで構成されていたグーグルとメタウェブのチームは、「エクストラクションアルゴリズム」やウェブに散らばるデータをまとめることが可能な数式を発展させる等の取り組みを行い、インデックスの規模を2億エンティティまで拡大してきたと述べている。
また、企業や政府機関に接触して、世界の国々の最新の詳細な情報を含むCIA ワールドファクトブックを含むデータベースへのアクセス権を得てきた。
グーグルスクエアードは昨年スタンドアロンのサービスとしては閉鎖されていたものの、このテクノロジーはグーグル検索の一部として存続していた。次の記事には詳しい情報が記載されている:
これらの機能が新しくないのなら、なぜウォールストリートジャーナル、そして、マッシャブルは先月大々的に取り上げていたのだろうか?マッシャブルにおいては、私が知る限り初めて“ナレッジグラフ”に関するグーグルの説明を引用していた。
グーグルはPRをするためにこれらのテクノロジーをプッシュするものの、それと引き換えに割に合わないデメリットを被ることになるのではないだろうか。
グーグルは、サーチ・プラス・ユア・ワールド(日本語)を導入して以来、過去に比べ結果の質が下がったとして、激しいプレッシャーに晒されてきた。そのため、前向きなテクノロジーをアピールするインタビューに応じすることで、ネガティブなPRへの対応にプラスの効果が見込めると考えているのだろう。これはビングの戦略と全く同じである。
ビングがプッシュしてきた前向きなサービスを信じていたなら、現在までにグーグルが検索エンジンとして落ちぶれると予測していたはずだ。
後にビングが買収した優れたセマンティックテクノロジーを持つパワーセットを覚えているだろうか?以下にこのサービスを取り上げた記事を挙げていくので目を通してもらいたい:
当然ながらパワーセットはビングの一部である。この買収により、ビングがグーグルよりも大幅に優れた検索エンジンに変わっただろうか?ビングはこのテクロノジーを導入することで、グーグルから大勢のユーザーを獲得しただろうか?
答えはいずれもノーである。しかし、それでもビングは宣伝をやめなかった。ただし、最近は若干トーンが下がってきているようだ。パワーセットは優れたテクロノジーである。このテクノロジーが将来的に重要な改善をもたらす可能性はある。しかし、すぐに革命が起ころうとしているわけではなく、また、今までも起きてはいない。
ウルフラムアルファがビングと提携を結んだときのことを覚えているだろうか?ウルフラムアルファの事実ベースの検索エンジンが、一部の人達の予測通り、グーグルを壊滅に追い込むことに失敗した後にこの提携は行われていた。次のエントリを読めばその記憶が蘇ってくるだろう:
直接的な答えは重量だと思われていたが、ビングがウルフラムアルファと提携を結ぶ際に大々的に宣伝していたアイテムの例を探すことすら私は出来なかった。
勘違いしてもらいたくない点がある。ウルフラムアルファは素晴らしい、役に立つ検索エンジンである。事実、SXSWカンファレンスで、現状、そして、今後の興味深い計画について、長く、実りある会話をスティーブン・ウルフラム氏と交したばかりである。
しかし、PRと現実として起こりそうなことを区別する必要がある。ビングは大げさな宣伝を何度も行い、その宣伝がグーグルからマーケットシェアを獲得する効果が全くないことが分かっても、さらに大げさな宣伝を続けていたのだ。以前投稿した以下の投稿を見ればよく分かってもらえるだろう:
グーグルは現在大げさな宣伝を行っているが、これは先程も申し上げた通り、実際よりも大きく解釈されている。しかし、直接的な答えと理解に関して、なぜこのような大げさな宣伝を行っているのだろうか?
理由の一つとして、グーグルは昨年墓穴を掘ってしまったことが挙げられる。D カンファレンスで、ウォールストリートジャーナルのテクノロジーコラムニストのウォルト・モスバーグ氏は、グーグルのエリック・シュミット会長に対して、ビングによる直接的な答えの提供と比べ、グーグルが劣ると指摘していた。そして、この主張にシュミット氏は同意していたのだ。私が当時投稿したエントリの一部を抜粋する:
モスバーグ氏は、ビングは一部のケースにおいてはグーグルよりも多くの直接的な答えを提供していたと述べた。
シュミット氏は、「一部の限られたケースにおいてはその傾向が見られる」と発言していた。
このように ? グーグルの3人のトップのエグゼクティブのうちの1人が、ビングが、例え限られたケースであったとしても、グーグルに勝っている点を認めていた。このような発言は過去にもきっと幾つか存在するはずだが、とても稀である。
この一連の発言は常軌を逸していた。モスバーグ氏は誤っていたのだ。“一部”のケースとは何を意味しているのだろうか?その他の“一部”のケースでは、グーグルが勝っているのではないだろうか。しかし、全体的にどの検索エンジンが、より多くの直接的な答えを、そして、より少ない役に立たない直接的な答えを提供しているのかは誰も把握していない。誰も分からないのだ。モスバーグ氏は、自らチェックしたわけではなかった。第三者による調査も行われていない。信頼できる答えをリストアップする「直接的な答えのアップストア」が存在するわけではないのだ。
ビングがグーグルを凌いでいる点を信じているのは、恐らくモスバーグ氏だけだと思う。モスバーグ氏に対してシュミット氏は怯んでしまったのではないだろうか。モスバーグ氏は大物中の大物である。同氏の過ちを指摘するのは勇気がいる。実際にモスバーグ氏が間違えていたとしてもだ。
その結果、一流のテクノロジージャーナリストに弱いと言うイメージがグーグルについてしまった。この状況を脱するために何をすればいいのだろうか?
これから直接的な答えについて話すつもりなら、すぐに行動を起こした方が良い。なぜなら、他にも問題が生じしているからだ。
最新のアンドロイド 4のモバイルOSでは、間違いなく声による検索が難しくなり、そして、大半のアンドロイドのスマートフォンはバージョン4にアップグレードされていない。その一方で、シリが搭載されたiPhone 4Sの電話機は、飛ぶように売れている。
シリは何をしているのだろうか?ユーザーが実行する一部の検索をグーグルにではなく(やはり、アップルとの提携が必要であるため)、代わりにイェルプとウルフラムアルファに送っているのだ。
ボイス検索の25%はシリで行われている。実に多くの検索がシリで行われていることになる。
メディアもこの点に気づいている。また、アップルが最新のiOSでグーグルマップから距離を置いた点もメディアは気づいている。また、ファイナンシャルアナリストはグーグル-アップルの契約が終了するとグーグルの収益に影響が出るかどうかを計算しようと試みている。この試みもメディアの注目を集めている。
この状況を注視しているなら、このウルフラムアルファ型のファクト検索エンジンを手に入れた経緯をすぐに明かすべきである。事実、昨年、グーグルはウルフラムアルファのようなグラフィカルな計算機を投じていた。
グーグルは昨年より多くの直接的な答えを提供するようになると過去に何度か言っていた。今後の数ヶ月間でこれが最も大きな変化になるように思える。
この直接的な答えは、マッキンリー山の高さ等の直接的な答えを提供しようと試みる比較的小規模なサイトからトラフィックを奪う可能性がある。これらのサイトにとっては悲しいことだが、検索ユーザーにとっては良い傾向である。また、より広範な情報を提供する大きなサイトにはあまり影響を与えないはずである。
実際に既にこの答えを見ることが出来る:
上部に直接的な答えが表示されている。この部分の3つの矢印は、通常の結果として複数のソースが取り上げられている点を示すものである。その下の4つ目の矢印は、別のサイトが登場している点を示している。
直接的な答えを提供することで、検索ユーザーはこれらのサイトのリンクをクリックしなくなる可能性がある。しかし、答えは既に一部のページのデスクリプションに記載されているため、既にほとんどクリックされていないと思われる。
また、グーグルが、グーグルボイスアクションズの改良したバージョン – シリのようにアシスタントに近いバージョンの開発に取り組んでいると言うレポートが存在する。どうやらメイジェルと呼ばれているようだ。このプロジェクトは、以前からスタートレックのようなコンピュータ(メイジェル・バレット-ロッデンベリーを声優として採用)を様々なグーグルのスタッフが言及してきたことを考慮すれば、妥当だと思える。
しかし、検索エンジンは何年も前から“10本の青いリンク”を超えるサービスについて語っており、本日のウォールストリートジャーナルの記事で紹介されている変更が、現在のグーグルの検索結果を大幅に変えるとしたら、想定の範囲外である。当然、より多くの答えが提供されることになるだろう。しかし、10本の青いリンクは今後も検索結果の中心として残るはずだ。
グーグル側の反応だが、私が送信したeメールへの返信には、「現時点で特に発表することはありません」とだけ綴られていた。
公表を前提とした情報を得られるかどうか今度も追跡していくつもりだ。
PS: グーグル検索の取り組みを統括し、ウォールストリートジャーナルの記事で発言が引用されていたアミット・シンガル氏は、グーグル+にエントリを投稿し、次のように指摘している:
先日、グーグルを取り上げた記事が、グーグルの検索における現状および今後の方向性に対する関心を一気に高めたようだ。
毎日グーグルは、出来るだけ早く質問に対する最高の答えを提供する力を改善する努力を行っている点を伝えておきたい。そうすることで、グーグルは生のデータを世界中の大勢のユーザーのために知識に変えている。しかし、この経験を提供する力は、質問を理解する、また、存在する全てのデータを正確に理解する力に等しい。そして、現在、グーグルの理解は残念ながら限定されている。「10の米国で最も深い湖」と言う質問が投げられれば、キーワードに基づいて優れた結果を提供するものの、深さは何か、または、湖とは何かを理解していることが必ずしも理由ではない。
2010年、グーグルはオープンソースのナレッジグラフのフリーベースを買収し、それ以来、当時存在した1200万の相互接続したエンティティおよびアトリビュートを、2億以上に拡大してきた。このナレッジグラフに対して、グーグルは、さらに多くのナレッジを作り出す上で役に立つツールとして見ている – 創造性と見識が無限に続くサイクルである。
しかし、先月のインタビューの中でも説明したように[先程触れたマッシャブルのインタビュー]、この好循環に向けた初期のステップは、ほんの序の口でしかない。そのため、今後も続く長い道のりに関する最新情報が入り次第、提供していく。
最後の部分「長い道のり」は重要である。これは私の主張を強調している。つまり、しばらくは検索のデザイン、そして、仕組みに大きな変化が現れる可能性は低いだろう。
この記事は、Search Engine Landに掲載された「WSJ Says Big Google Search Changes Coming? Reality Check Time!」を翻訳した内容です。
ウォールストリートジャーナルの記事はどうでも良いのですが、今回の記事自体は改めてGoogle検索の方向性や今後について初心者も上級者も確認できるとても有益な記事だったと思います。セマンティック検索の話は何度も繰り返されてきたことですが特にAppleやシリの話題は新たな検索の未来を感じさせてくれますね。しかしダニー・サリバン、あの記事一つで一瞬にしてここまでの情報満載の記事を書き上げるとは伊達にサーチ業界のご意見番トップを張ってないです。
今回のニュース、検索順位&SEO業界に激震か?!と恐れおののいた人もいたかもしれませんが、「Googleのアルゴリズムが大変動!」の噂が立った時はとりあえず(本心はともかく)スルーできるようになればあなたも大人のSEOエキスパートの仲間入りです。 — SEO Japan
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