ゲストライターのマーク・ドラポー博士は、マイクロソフトの米国パブリックセクター・ソーシャルエンゲージメントでディレクターを務め、また、テクノロジーとイノベーションが行政機関、公共事業、そして、社会改革に影響を与える仕組みを取り上げるオンラインマガジン、SECTOR: PUBLICでは編集を担当している。
私はマイクロソフトでの新たな役割を引き受けるまでは、ビジネス、コミュニケーション、その他のトピックについて幅広く見聞を深める任務を担っていた。私はマサチューセッツ工科大学のグラント・マクラケン氏が綴ったChief Culture Officer(チーフ・カルチャー・オフィサー)と言う最新の書籍の影響を強く受けた。この本は、“クールハンティング”ではなく、ポップカルチャーを取り上げており、企業に影響を与えるスローペースの文化的な進化を幅広く理解し、この進化を観察する方法および企画に組み込む方法に焦点を絞っている。
大規模な組織は、このような文化の変化には無関心である。それには様々な理由がある。人材が老齢化しており、若い世代の行動を把握していないのかもしれない。統計データにあまりにも依存し、グループやランダムな会話に焦点を絞る取り組みにはあまり注意していないのかもしれない。また、このようなトレンドに気付いているものの、関係がないとして却下しているのかもしれない。あらゆる理由が考えられ、マクラケン氏はこの素晴らしい書籍のなかで詳細に説明している。
文化面でのトレンドは、たとえ何度か判断を誤ったとしても、引き続き発生する傾向がみられる。追跡、分析、そして、吸収は継続的なプロセスとなる。そのため、米国パブリックセクター・ソーシャルエンゲージメント・ディレクターの役割の一環として、マクラケン氏が提案する非公式な“チーフ・カルチャー・オフィサー”になる決断を私は下した。 そして、この仕事に就いて約10ヶ月が経過したので、公共およびボランティアの団体、そして、一般的な社会利益に影響を与える5つのトレンドを紹介していこうと思う。これらのトレンドは今も発生しており、お互いに関連している。
目次
流行としてのテクノロジーの変化が、第一の文化的なシフトである。一部の人々はこのシフトチェンジを「ITの消費化現象」と呼んでいる。どんな名称で呼ぼうが、このトレンドはテクノロジー企業だけでなく、テクノロジー企業と関連するすべての人々にインパクトを与える。つまり、私たち全員である。
テクノロジーが、作業を行う手段だけではなく、個人的な流行の哲学になると、2つの大きな傾向が見られるようになる。まず、テクノロジー企業間の競争はテクノロジーの質だけでは勝負がつかなくなる。そして、“大企業、大きな政府”の世界の外側の影響力のある人々が、企業や政府が購入し、利用するテクノロジーに影響を与えるようになる。たとえ理不尽であったとしてもだ。
2つ目の文化的なシフトチェンジは、インフルエンサーとしての一般の人々の役割だ。かつては大学教授や牧師等の有識者がインフルエンサーであった。そして、メディアのパーソナリティ、とりわけ堅いニュースを報道する人々にスポットライトが当てられる時代がやってきた。その後、映画スター等のセレブがインフルエンサーになる。そして、現在、誰もがセレブになる可能性を秘めており、そのため誰もがインフルエンサー化するポテンシャルを持っている。
ザ・ヒルズのスペンサーとハイディも、ダンシング・ウィズ・ザ・スターズのビルストル・ペイリンも、ニュージャージーの田舎町でジムで鍛え、日焼けを楽しみ、そして洗濯をする「ザ・シチュエーション」も、あるいは、ホワイトハウスのパーティーに乱入したミケル・サラヒも、その行動が多くの人々に影響を与える。CEOの子供達は、スター誌の写真を見たり、TMZを視聴したりしても、この類の人々から影響を受けることはないのだろうか?それが電話であれ、財布であれ、あるいはバケーションの目的地であれ、彼らの持ち物を欲しくなったり、彼らが行った場所に行きたくなるのではないだろうか?
好きなだけザ・シチュエーションを笑えばいい。だが、彼は今年5億ドルを稼ぎ出すとみられている。そのザ・シチュエーションがウィンドウズ・フォン 7や最新のキネクトを搭載したXbox 360を気に入っていたら、販売数に影響を与えるはずだ。現在、有名な一般人が大企業によるITの投資に間接的な影響を及ぼしているのだ(人々が認めていても、そうでなくても)。
3つ目の文化的な変動は、ジェネレーション Y、特に25歳以下の不況に見舞われた人々の変化である。数年前まで、「クォーターライフクライシス」(青年期の危機)と言う用語を聞いたことがなかった。特定の年齢の若者が、従来の企業や政府を含む様々な事柄に幻滅しているのだ。
彼らはどのように反応しているのだろうか?もっとリアリティ番組を見る以外にも、彼らはメディアの新しい形式を介してお互いにつながり、堂々と、そして、時にはプライバシーを配慮せずに自己表現する行為、素早く変わる世界に適応する行為、お互いの目標を達成するために助け合う行為、そして、競争社会で万能な力を持つ金銭を巡って争うのではなく、公共事業および社会的利益と言う名のコミュニティを支援するために出来ることについて考える行為に関心を持っている。
4つ目の文化的な変化は、すべてのレベルにおいて、より透明性が高く、より参加しやすく、そして、より協力的な政府へのシフトチェンジであり、通常、ガバメント 2.0、またはオープンガバメントと呼ばれる。この動きは以前から存在するものの積極的に採用したのは、現在のオバマ大統領が大統領候補であった時であり、タイミングが抜群であった。具体的に言うと、(1)機関に対する信頼性が著しく低下しており、(2)不況時に幻滅し、そして、(3)クラウドコンピューティング、オープンソースのコード、そして、ウェブ 2.0のプラットフォーム等の安価なソフトウェアが台頭したため、このシフトチェンジが可能であったのだ。
オープンガバメントに関わる人々の間で共通する一部の価値が、政府のサービスの効率を向上し、少ない人数で大きな取り組みを成し遂げ、市民のお金の使われ方に対して深く考えさせるようになり、政府の内部構造について透明性を増し、そして、選挙で投票してその後の数年間は忘れてしまうのではなく、より政府に市民を積極的に参加させるのだ。これは不況時の多くの人々の起業家精神と一致している。
5番目の文化面での変化は、do-it-for-me(人任せ)からdo-it-yourself(自分で実行する)への変化だ。治療に対して病院を信頼するかどうか、健康的な食べ物に対してレストランを信頼するかどうか、あるいは公的なプロジェクトの実施に対して政府を信頼するかどうかに関わらず、権限に対する不信感がつのりつつあり、そのため、彼らの仕事に対しても不信感が増している。その結果、自分達で対処する人々が増えつつあるのだ。「ティーパーティー」はこのトレンドの政治版と言っても過言ではない。
数千人もの起業家、投資家、そして、何でも屋を集めるメーカーフェアのような大掛かりな運動も起きている。カリフォルニア州、デトロイト…そしてアフリカでもイベントが行われている。ダラスでは回路基板で遊ぶことが好きな人達の会合が行われいる。DIY自宅学習に関する書籍も出版されている。クリエイティブなロックバンドのOK Goはミュージックビデオのために手の込んだ機会を作り出した。砂漠で行われるあの有名なバーニングマン祭りでさえ元を正せばコミュニティの自給自足、アイデア、そして、協力をテーマにしている。
上述した変化は、好奇心をそそられ、興味深く、常に変化する経緯で、お互いに関係している。一般のインフルエンサーが格好いい電話やテレビゲームを決定する。人々は役所のDIYを試みている。若者はここ最近で最も行政に興味を持っている。クォーターライフクライシスを介する若者の間のDIYに対する態度は、起業家精神を高めている。 知名度の低い“セレブ”が連邦議会の前で、そして、スマートフォンからツイッターで大義を奨励している。このような出来事は5年前には想像すらできなかった。
それでは、これらの5つの相互に関係する長期的な文化のトレンドは、人々、組織のコミュニケーション、そして、公共サービスにとってどんな意味があるのだろうか?私は4つの意味があると考えている。
まず、従来型の組織は今以上にクリエイティブになり、ノイズばかりのメディアの世界で存在感を発揮し、不信感をつのらせるオーディエンスに信頼してもらう必要がある。イノベーションはここ10年の流行語である。特に回復に時間がかかる世界的な不況期においてはこの言葉の重要性が高まる。リスクを取らなければ、未来はない。
次に、もはや誰も一人では生きることが出来ない時代が到来している現実だ。人々はお互いに協力して生きている。政府は市民と協力し、企業は顧客と協力する必要がある。そう、顧客と協力するのだ。顧客のフィードバックに真剣に耳を傾けるのであれ、イノベーションを巻き起こす大規模なクラウドソーシングを行うのであれ、あるいは単にコミュニティへの支援体制を改善するのであれ、顧客を人間ではなく、顔のない領収書、売り上げのきかっけ、そして、収益源として扱うなら、未来はない。
第三に、田中さんや鈴木さんや桜井さんと仲良くしていても、彼らが一人で生活しているわけではない点を思い出してもらいたい – 彼らは製品を購入してくれる人々で構成されるコミュニティの一員なのだ。事実、彼らは生活する場所、性別、視聴して、ツイッターでネタにするテレビ番組、収入の金額、そして、自転車通勤なのか車通勤なのか等、多くのコミュニティの一員である。情報はコミュニティ内で山火事のようにオンラインそしてオフラインで広がっていく。今こそ、コミュニティを認め、支援する取り組みが鍵を握る。自分の成長と共に関係者のコミュニティを育てなければ、未来はない。
4つ目の「公共」は最近聞く機会が増えた言葉だ。データ、リソース、知的財産 – の貯蓄はひんしゅくを買う。合法的な行為であり、収益を得る上でも役に立つかもしれないが、長期的に見ると、ブランドにある程度被害を与える。知的財産は貴重であり、すべてを共有させることが出来るわけではない。しかし、共有に貢献する取り組みは、そこで生活するコミュニティを気にかけている証拠になる。公益にまったく貢献しないなら、未来はない。
上述した4つのコミュニケーションの提案を読み進めていくと、かつてはオーディエンスに対するパブリックリレーションズの仕事であったものが、今やコミュニティに対する行政の仕事に移ったのではないかと思わせる。また、ついでに言うと、新しいパブリックリレーションズのインフルエンサー、リーダー、そして、策士は、“コミュニティ”を自らの仕事に組み入れている人達のことを指す。
行政はパブリックリレーションズの近い未来にとって統一のテーマと言えるだろう。 自分の胸に問いかけてみよう: 自分自身は、または会社は企業のエコシステムの中で、行政、公益、そして、社会変革に対して、意義深く関わっているだろうか?パブリックリレーションズの領域は、ますます公的な機関(政府、非営利団体、そして、ボランティア団体を含む)、そして、行政の領域と重なり始めている。ブライアン・ソリス氏およびディアドラ・ブレイクンリッジ氏が綴った書籍の中でも指摘されているように、人々は「パブリック」をパブリックリレーションズに戻し始めている。
近い将来、ビジネスコミュニティで“勝ち組”になるにはどうすればいいのだろうか?他の企業、組織、事業体よりも、真摯に考えている点を見せることで、勝ち組になれるのではないかと私は思う。 この気づかいは様々な形式で行われる – 見解を導く、素晴らしいカスタマーサービスを提供する、コミュニティに自分達で支援を行う力を与える、決定に関して分かりやすく説明する等。このような行為に対して、買い物の機会を増やしたり、忠誠を高めたり、あるいは、ポジティブな口コミを行ったりして、人々は間接的に感謝の意を示すだろう。
これは事業の本質を変えることではない。人々、つまり“顧客”は、企業が利益を得ることを目的としている点を把握しており、その点を受け入れている。製品を販売している人達が自分のことを気にかけていること、そして、自分勝手ではないことを知りたがっているのだ。マーケティング部門のスタッフにブランドの最も悪口を言う人々またはファンを10名を挙げることが出来るのか問いたい。客層ではなく、個人の名前でだ。名前がスラスラ出てこないようなら、近い将来、お払い箱になるだろう – なぜなら気にかけていないからだ。
最後にワインの専門家であり、後にマーケティングコンサルタントになったゲイリー・ヴェイナーチャック氏のこの言葉を皆さんにも知ってもらいたい。同氏は私が好きなエキスパートの一人だ。分かち合いは助け合い。有言実行することが出来るか出来ないかが、運命の分かれ道となる。
このエントリに付随するスライドは、スライドシェアに掲載されている。
ラップトップの写真は、クリエイティブ・コモンズの下、Dawn Endicoから借用した。スペンサー・プラットとハイディ・モンタグの写真は、クリエイティブ・コモンズの下、Valli Hilaireから借用した。難解な機械に触れるシカゴ地区の学生、アレクサ・ラックスの写真は、クリエイティブ・コモンズの下、Argonne National Laboratoryから借用した。人間ソーシャルネットワークの写真は、クリエイティブ・コモンズの下、Marc Smithから借用した。
この記事は、Brian Solisに掲載された「Five Cultural Trends Shaping Business Communications and Public Service」を翻訳した内容です。
普段、ネットの仕事をしていると忘れがちな、より大局的に世の中の流れを考えた内容で刺激になりました。米国を元に話されている内容ですが、日本、そして世界の多くの国でも通じる部分が数多くあると感じます。クリエイティビティ、コミュニティ、コラボレーション、そしてパブリック、、、これからの社会にこれまで以上に重要な意義を持った要素ばかりと思いますし、個人、行政はもちろん企業にとってもいかにより深く社会と繋がりその中で、最後の「分かち合いは助け合い」という言葉にあるように生かし生かされていくことが企業の繁栄の鍵となってくるのでしょうか。 — SEO Japan
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