「成功を祝うことに問題があるわけではないが、失敗から得た教訓に耳を貸すことの方が重要である」- ビル・ゲイツ
過ちを犯すことに対して、スタートアップのファウンダー達に忠告を試みる人達は多い。「過ち 起業家」とGoogleで検索すれば、ファウンダーとスタートアップの成功を阻むよくある落とし穴や過ちを厳しく警告する記事を多数見つけることが出来るはずだ。
ここで一呼吸置いて、考えてもらいたいことがある。誰もが「失敗から教訓を得た」と言うセリフを今まで何度も耳にしてきたはずだ。私自身、起業家として、そして、投資家として大きな過ちを何度か犯したことがある – また、私の経験上、成功よりも、遥かに過ちからの方が多くのことを学べる。
それなら、なぜ失敗を必死になって避けようとするのだろうか?矛盾しているかもしれないが、条件によっては、間違いは犯す価値があり、また、実際に積極的に犯すべきでもある。
そこで、スタートアップのファウンダーとして体験すべき失敗をリストアップしてみた。結局、過ちを犯すことになる。過ちからは多くの教訓を得られるため、起業の出来るだけ早い段階で失敗を味わうべきである。また、ミスを犯した後にするべき行動についても、幾つかアドバイスを送る。
1. メチャクチャにされる
順風満帆に行くはずがない。誰か – パートナー、共同ファウンダー、従業員、投資家、あるいは、今後の構想に絡む関係者に、ビジネスをメチャクチャにされることになる。信頼を裏切る、口頭、または、書面の契約を破る、報酬をカットする、株を盗む、もしくは、会社全体を破壊する(あるいは、その全てを実施する)人物が現れる。誰かがとんでもないミスを犯し、計画を断念しなければならなくなる。
避けられない問題を受け入れ、やって来る打撃に備え、痛み、または、ダメージが回復可能な程度であることを祈るのみだ。 通常、スタートアップは、運命により、そして、遠くの動くターゲットを狙う状況により、様々なタイプの人間(アイデアを出す人間、技術を持つ人間、投資する人間等)がごっちゃ混ぜになって誕生する。このターゲット、そして、ターゲットへのルートと道のりが明確に見えたとしても、他の人物には別のルートが見ているかもしれないし、自分とは違う躊躇する理由、または、動機を持っているのかもしれない。その結果、摩擦が生まれ、関係者の力のバランスによって、誰かが – それは皆さん自身かもしれない – 苦労することになる。
ミスを犯した後の行動: 「メチャクチャにされることが、なぜ「過ち」なのだろうか?私は何も悪いことはしていない」と思う方もいることだろう。鏡を見てみよう。よく考えてみると、災難をもたらした原因が、自分がしたこと、または、しなかったことである点に気づくはずだ。 メチャクチャにした人 – メチャクチャにされた人の関係は、少なくとも2名の人物がいなければ成立しない。そして、すべてのストーリーに2つの側面が存在する。明らかに自分の「せい」ではなかったとしても — 酷い、ひねくれた人物に遭遇してしまった結果 — その人物と事業を共に行う決断を下した理由を問うべきである。その人物の行為は事前に予測出来なかっただろうか?パートナー/従業員/投資家を事前に調査しなかったのだろうか?何をした、あるいは、何をしなかったために、メチャクチャにされたのだろうか?ジョージ W. ブッシュの名言「私を騙したのが一度だけなら君が悪い。でも、二度騙したなら…それは私に問題がある。」を心の糧にしてもらいたい。そして、The Whoの歌にあるように「再び騙されてはならない」。一度ズタズタに引き裂かれれたら、理念を妥協することに関して、あるいは、後々自分を利用する可能性がある人物と仕事をすることに関して、今後は慎重に判断することが出来るようになるだろう。
2. リベンジを誓う
これは上の過ちに付随する過ちである。噛まれると、本能によって噛み返したくなる。何か(目に見えるもの、感情的なもの、未来のポテンシャル、あるいは、その全て)を失い、加害者がもたらした被害、あるいは、加害者が、損失をもたらすことで得た満足感を否定したくなる。誤った方向に導かれ、反射的に今度は相手を誤った方向に導こうとする。
一度やってみればよい。失敗するだけでなく、大方、何も起きないか、最悪の場合、反動が返ってくる。メチャクチャにされたと言うことは、同等のリベンジを実施する行動力、力量、あるいは、スキルを持っていない可能性が高い。通常は、自分の未熟さ、安っぽさ、汚らわしさを痛感し、そして、嫌な気分を何度も思い出し、二度とリベンジをしたくなくなる。
ミスを犯した後の行動: 後ろではなく、前を見よう。スタートアップを立ち上げる目的は、勝つためであり、2回負けを喫しても、勝利とは言えない。過去にこだわるのではなく、「未来でリベンジを果たす」べきだ。成功することが最高のリベンジになる。自分に起きた出来事を新たな推進力として活用し、メチャクチャにした人物、そして、世界に対して、自分がもっと優れた人材である点、そして、もっと優れた結果を出せる点を証明しよう。
3. 「ステルス」モード
手持ちのカードを見せたくない気持ちはよく分かる。アイデアを盗まれることを恐れているのかもしれないし、説得力をもって説明することが出来るほど、製品に対して自信がないのかもしれない。テクノロジー産業は、「ステルスモード」と言う聞こえの良い表現を生み出した。これは、不安に満ちた新人ではなく、スパイのように内密に動いている印象を与える。
「ステルスモード」は、大方、過ちに近い。まず、仰々しい、あるいは、不安を抱えていると解釈され、信頼に傷をつける可能性がある。また、その人物を信じていないことを暗に伝え、ネガティブな感情を与えてしまう。そして、この感情は、今後、詳しく伝える時期がやって来ても消えていない可能性が高い。しかし、何よりも大事なことは、自らのネットワークを用いて、製品やベンチャーを形作り、発展させ、そして、進化させる掛け替えのない機会を見逃してしまう点である。知り合いになる、出会う、あるいは、話をする人は全員、ベンチャーの成功のキーパーソンになる可能性がある。
ミスを犯した後の行動: 「堂々と伝える」モードに切り替える。今話をしている人物が、その新しい優れた製品を買ってくれるかもしれないし、投資してくれるかもしれない。それよりも、買ってくれる、もしくは、投資してくれる人を知っている方が可能性は高い。大袈裟に表現することなく、好奇心の種をまき、テリトリーを探し回り、そして、ターゲットにしているマーケットを示唆することは可能である。スティーブ・ブランクも提唱しているように、ファウンダーは出来るだけ早い段階で(実際の、または、バーチャルの)オフィスの外に出て、フィードバックを直接もらい、そのフィードバックを基に製品をアップデートしていくべきである。何もかも秘密にしておくと、製品/マーケットの適合、提携、または、ベンチャーへの投資を行う人物と関係を構築する機会を逸してしまう。取り組んでいるプロジェクトとターゲットにしているマーケットを率直に伝え、マーケットの問題点と弱点を確認し、関心を引き出し、大事なコネを作ることが可能な「ティザー」を考案すると良いだろう。
EverMinderを設立した際、開発が完了する前であっても、私は誰とでも製品に関する話を大っぴらにしていた。素晴らしいフィードバックをもらい、その結果、製品を立ち上げる前に、紹介を経由して、3名のエンジェル投資家に出会うことが出来た。
4. 都市伝説「作ったら、ユーザーはやって来る」を信じる
映画「フィールド・オブ・ドリームズ」によって、「(球場を)作れば、やって来る」と言うフレーズが一般的な表現として、とりわけ大勢の影響を受けやすいスタートアップのファウンダーの間で定着した。このフレーズは有名であり、(そして、ケビン・コスナーが球場を作ったところ、魔法のように、実際にこの世を去った野球選手が姿を現したため)、一部のファウンダーは、スタートアップの世界でも優れた製品を作れば、ユーザーは自然と集まり、その他の製品に圧勝することが出来ると信じている。
確かに、このハリウッド映画では、幽霊の野球選手が実際に球場に姿を現したものの、現実として、製品を作っただけでは、ユーザーはやって来ない。スタートアップのセオリーでは、「ユーザー」が「やって来る」ことを「マーケットプル」と呼ぶが、これはアーリーアダプターの間であっても自然に発生するわけではない。マーケットプルには、製品デザイン、製品/マーケットの適合、そして、ターゲットのマーケットへの実践的な「テクノロジープッシュ」を集中的に、そして、繰り返し実施するアプローチが求められる。このアプローチが成功して初めて、マーケットプルは功を奏する。マーケットに気づいてもらい、重要視してもらうために真剣に取り組み、そして、個人的に初期のユーザーと個別にやり取りを行わなければならなくなるだろう。それで良い。製品/マーケットの適合が実現したら、「ユーザー」は姿を現してくれる。しかし、その前に、まずは、アーリーアダプターの人達を積極的に勧誘し、魅了しなければならない。
ミスを犯した後の行動: この浅はかな映画が起きた現象が、スタートアップの世界でも起きるなどと妄想するのは止めよう。「作れば、やって来る」を信じているなら、テクノロジープッシュ、マーケティングプル、最低限の製品の作成を十分に理解しているとは言い難い。映画を見るのではなく、時間を割いて真剣に勉強するべきだ。スティーブ・ブランク、ショーン・エリス、アンドリュー・チェン、このブログ、そして、効果的な製品開発および顧客開拓を提唱するその他の優れた作品をじっくりと読み、出来るだけ早く目を覚ましてもらいたい。
(映画から刺激を受けるタイプなら、「幸せのちから」を見よう。トウモロコシ畑で意味のない声に耳を澄ますのではなく、困難に立ち向かい、奮闘し、製品と顧客を熱心に理解し、気遣い、そして、執拗に目標を達成しようとする気迫が、勝利につながる)。
5. 「私の好きな過ち」
この過ちは私のお気に入りだ。なぜなら、シェリル・クロウの歌の一節にあるように、複雑だからだ。そして、私自身頻繁にこの過ちを犯している。
好きな過ちは、自信と謙虚のバランスが取れていない状態で起きる。この2つは陰陽の関係であり、ロケットを飛ばそうとすると、時折、どちらかに傾いてしまうようなものだ。
スタートアップのファウンダーはほどほどに自信を持つべきである。いや、もっと、つまり、己惚れるぐらいの方がいいのかもしれない。提供するソリューションが、大ヒットすると心から信じる必要がある。しかし、自信過剰は極めて危険である。なぜなら、傲慢だと受け取られ、人間関係にダメージを与えてしまう可能性があるためだ。また、根拠ない自信となり、ビジョンや分析を曇らせてしまうこともある。優れたファウンダーは、ある程度謙虚な姿勢も持ち合わせている。自分よりも優れた人物がいることを理解している。ただし、謙遜し過ぎてしまうと、自分自身、そして、ベンチャーを引っ込めてしまう可能性がある…。
偉大なタルムード(ユダヤ教の教えを解析した文書)には、「誰もが2つのポケットを持ち、適切な状況において参照にすべきメモをそれぞれのポケットに入れておくべきだ」と書かれている。 片方のポケットには、「世界は自分のために作られた」と書かれたメモを、もう片方のポケットには、「私は大地の管ようなものだ」と書かれたメモを入れておこう。
(シェリル・クロウとタルムードを一緒に言及したのは、私が初めてだと思う)。
ミスを犯した後の行動: 残念ながら、このミスに対する明確な助言を送ることは出来ない。自信と謙遜のコントロールは、「押す」と「引く」の関係であり、毎日調整しなければならない。それぞれの状況を評価し、どちらのメモが該当しているのか特定しよう。
私は初期段階で投資を行うため、自分達(そして、そのベンチャーが)が素晴らしいことを私に認めさせようとする起業家に頻繁に出会う。この行為自体は問題ない。しかし、経歴を誤魔化す行為は受け入れられない。過ちと失敗について腹を割って話してもらいたい。何を学んだのか(そして、別の人の資金を使ってミスをしたこと)を聞きたいのだ。優秀な起業家は、成功と失敗の双方を伝える。そして、優秀な投資家は、ネガティブにとらえることなく、過ち、そして、得た教訓を知りたがっている。
ありふれた表現だが、完璧な人など存在しない。ミスは必ず起きる。皆さんもきっとミスをする。ミスを予測し、受け入れ、分析するべきだ。なぜなら、過ちから得た教訓は、自分自身、そして、会社が成長する上で、重要で、永遠に消えることのない基盤となるためだ。
…と言うことで、行動を起こし、少しミスを犯し、ミスから学ぼう。それが、勝利を導く。
ライター紹介: ベン・ウィーナー(@BeninJLM)はスタートアップのファウンダーであり、エルサレムを拠点に活動し、初期段階のスタートアップに資金を調達する小規模な投資会社のJumpspeed Venturesで役員を務めている。
この記事は、OnStartupsに掲載された「5 Mistakes Every Startup Founder SHOULD Make」を翻訳した内容です。
イスラエル出身の筆者のせいか?、良くあるこの種の記事と違う味わい深さがあった気がします。失敗の理由はともかく、そこから何かを学んで次に活かすことが大事なのは間違いありません。とはいえ、私も15年近くビジネスをしていますが、相変らず日々失敗を繰り返していますけど・・・たまに学習能力ないんじゃないか、と不安になる最近です 汗 — SEO Japan
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