近年、AIによる自然言語処理の話題とともに注目を集めるのが形態素解析です。Web上で活用されるさまざまなサービスに欠かせない技術である形態素解析は、どのような場面で活用されているのでしょうか。今回は形態素解析の概要と活用されている現場、SEOへの応用の可能性についてご紹介します。
目次
形態素解析は、人の会話やテキストをコンピューターで解析する自然言語処理(Natural Language Processing=NLP)の過程のひとつです。日本語や中国などの「〇〇語」の総称である自然言語を、言語において意味を持つ最小の単位である形態素に分割し、品詞の判別や変化の解析を行う作業を指しています。
例として「庭の生えている大きな栗の木」という文章を形態素解析すると、以下のように分割できます。
庭 / に / 生えている / 大きな / 栗 / の / 木 |
さらにそれぞれの形態素がどの品詞に該当するか分類します。
庭(名詞) / に(助詞) / 生えている(動詞) / 大きな(形容詞) / 栗(名詞) / の(助詞) / 木(名詞) |
こうして文章を形態素に分割することで、コンピューターは語句の区切りを理解しやすくなります。
形態素解析はコンピューターが自然言語を理解するために必要な技術であり、現代社会におけるさまざまな場面で活用されています。
自然言語処理を行うAIにとって、形態素解析は必要不可欠な技術です。自然言語は「形態素解析」「構文解析」「意味解析」「文脈解析」といったいくつもの解析の積み重ねにより処理が行われています。形態素解析は自然言語処理において初期に行われる解析であり、形態素解析の質は、その後の解析にも大きく影響します。
さまざまなジャンルの最新ニュースをスマートフォンで手軽に読めるニュースアプリ「スマートニュース」では、形態素解析が活用されています。スマートニュースは形態素解析の技術を用いて文字組みを行うことで、画面上に表示されるタイトルの読みやすさを実現しました。タイトルの文字数が長く見出しの中で改行される際には、改行後の頭に名詞がくるように調整されています。この改行処理により、ユーザーは最初に重要なキーワードを目にする機会が増えるため、クリック率や完読率の向上が見込めるといわれています。
SNSのトレンド表示も、形態素解析の技術が活用された機能です。トレンドはユーザーの投稿を分析し、頻出する単語をベースに作成されています。しかし単純な文字列抽出では不必要なワードが含まれやすく、正確なトレンドの把握が難しくなるおそれがあります。そのため、ユーザーの投稿を形態素解析して固有名詞を抽出することで、特定のトレンドワードの絞り込みが可能です。
Googleなどの検索エンジンは、検索したい語句をワード単位で入力することで検索が可能となります。しかし、ユーザーは必ずしも単語を入力するとは限らず「新宿で飲み会」といったように自然言語で検索するケースが少なくありません。
検索エンジンは自然言語で入力された検索ワードを形態素解析し、検索に必要な情報を抽出する処理を行っています。上記の例なら「新宿 / で / 飲み会」に分割され、検索に必要な「新宿 飲み会」のワードで検索処理を行っています。
PCなどで使われる日本語入力ソフトは、入力されたかなを漢字に変換する際に形態素解析を利用しています。
日本語入力ソフトは、入力されたテキストに対して登録されている辞書から適切な漢字・かななどを当てはめ、適切なかな・漢字に変換する仕組みです。しかし、テキストが品詞に分割されていないままでは適切な文字を当てはめられません。そこで、形態素解析により変換の単位となる品詞への分割が必要となります。
形態素解析を行えば「にわにはにわにわとりがいる」のように一見区切りがわかりにくいテキストを「にわ / には / にわ / にわとり / が / いる」と分割できます。ここへ辞書から抽出した同じ読みの漢字を当てはめることで「庭 / には / 二羽 / 鶏 / が / いる」と変換できるのです。
ここまで形態素解析について解説してきましたが、実際に形態素解析を行うにはどのような手段があるのでしょうか。形態素解析が可能なツールを日本語向け、英語向けでそれぞれ紹介します。
「日本語形態素解析」は、LINEヤフーが提供するテキスト解析WebAPIです。日本語の形態素解析に特化した機能を備えており、「かな漢字変換」「ルビ振り」「校正支援」「日本語係り受け解析」「キーフレーズ抽出」「自然言語理解」といった機能を利用できます。
また、多くの形態素解析ツールでは実装済みの辞書をベースに解析を行います。しかし、日本語形態素解析Web APIは2023年3月にユーザー辞書機能が追加されたことで、現代用語やブランド名、専門用語など、一般的な辞書に含まれていない用語の登録ができるようになりました。現在では、より高い精度での形態素解析が可能になっています。
「MeCab(めかぶ)」は、京都大学情報学研究科-日本電信電話株式会社コミュニケーション科学基礎研究所 共同研究ユニットプロジェクトを通じて開発されたオープンソースの形態素解析エンジンです。言語、 辞書、コーパスに依存しない汎用的な設計を基本方針としています。
パラメータの推定に条件付き確率場(Conditional Random Fields、CRF)を用いており、高い解析精度を実現しているのが特徴です。使用できる言語はC、C#、C++、Java、Perl、Python、Rubyなど幅広く、日本語の形態素解析エンジンの中では最も多く使われているといわれています。
「Juman++(じゅまん)」は、京都大学の黒橋・褚・村脇研究室が開発した形態素解析ツールです。「日本語を計算機で解析研究すること」を目的に開発された背景があることから、文法の定義や単語間の接続関係の定義のカスタマイズやUTF-8への対応、単語の意味の詳細な分析といった機能が備わっています。
また、言語モデルに Recurrent Neural Network Language Model (RNNLM) を用いることにより、MeCabや旧モデルのJUMANよりも日本語としての自然さを重視した解析が可能となりました。
なお、京都大学の言語メディア研究室のホームページにはWeb上で使用できるデモ版が公開されているため、誰でも手軽にJuman++をトライアル可能です。
「janome(じゃのめ)」は、Pythonで利用可能な形態素解析ライブラリです。依存ライブラリがないため、インストール環境を問いません。MeCabと同じ辞書データを内蔵しており、高精度の形態素解析が期待できます。使用方法がシンプルなうえ、MeCabと同じフォーマットでのユーザー辞書登録が可能であることから、初心者からベテランまで幅広い層が活用しています。
「Tree Tagger」は、さまざまな言語に対応する形態素解析ツールです。英文の形態素解析ツールとして有名ですが、ドイツ語、フランス語、スペイン語などにも対応しています。使用環境はWindows、Mac、Linuxなど幅広く、海外言語の形態素解析が必要な多くの現場で愛用されています。
「NLTK(Natural Language Toolkit)」は、Pythonで自然言語処理を行うためのライブラリです。テキストの前処理、品詞タグ付け、構文解析、意味解析、類似度計算といったさまざまなタスク実行のための機能を備えており、形態素解析のための機能も含まれます。文字列を対象としたデータマイニングであるテキストマイニングにも対応しており、言語学習の教材としても多く活用されています。
形態素解析は検索エンジンで活用されていると前述しました。では形態素解析はSEOと深い関係にあり、SEO対策に応用できると考えてよいのでしょうか。
あるキーワードの検索結果ページで上位に表示されているページは、必ずしも作成者が意図したキーワードで上位を取れているとは限りません。「電力会社 比較」のキーワードを狙った記事を作成したつもりなのに、タイトルに盛り込んだ「原発」「電気代」などのワードに引っ張られ、想定外のキーワードを取得することもあるでしょう。
本来狙ったキーワードで上位表示を狙うためには、コンテンツ内で適切にキーワードを使用することが重要です。形態素解析は上位表示されているコンテンツ内で使われているキーワードを洗い出せば、目的のキーワードが使われずに異なるキーワードが頻出していることが明らかになるかもしれません。キーワードの使用数だけで順位が決まるわけではないものの、特定ワードの使用数をコントロールすることで、狙ったキーワードでの上位表示を狙える可能性は考えられるでしょう。
自然言語を最小単位に分割する形態素解析は、検索エンジンやSNSなど、私たちの身近なところで活用されている解析技術です。近年ではAIによる自然言語処理に活用される技術として注目を集めており、今後もさまざまなテクノロジーの発展に寄与し続けるでしょう。形態素解析はSEOへの応用も期待できる技術です。より高度なSEOを導入したWebマーケティングを目指すなら、ぜひ一度専門家へご相談ください。
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