サルマン・ラシュディは、現役の小説家の中で、5本の指に入る名作家である。
ラシュディは、1981年に真夜中の子供達でマンブッカー賞を獲得した。そして、2008年には、この作品は、ベスト・オブ・ブッカーに輝き、この賞が設立されて以来、最高の名作として、称えられている。
しかし、サー サルマン・ラシュディは、ナイトの称号が与えられるほどの作家になる前は、実は、ダイレクトマーケティングの草分け、デビッド・オグルヴィの下で、コピーライターとして働いていた。優秀な小説家は、優秀なコピーライターから教訓を得ていたのだ。
コピーライティングとクリエイティブライティングには、どのような共通点があるのだろうか?「何もない」と主張する人もいるかもしれない。オグルヴィ & メイザーのロンドンのオフィスで働いていた時代を、単に小説を書きながら、「会社勤め」していただけだと指摘するのは容易である。
しかし、コピーライターとしてラシュディが学んだ教訓は、小説家として成長する上で、欠かすことの出来ないものであった。事実、ラシュディが、コピーライティングの仕事の合間を縫って、真夜中の子供達を書き上げていたことを考えると、もしかしたら、仕事を辞めるべきではなかったのかもしれない。
それでは、小説家であり、コピーライターでもあるサルマン・ラシュディから、効果的なライティングの手法を学んでいこう。
目次
真夜中の子供達を書き終えようとしていた頃、ラシュディは、小説のタイトルを選ぶために長時間を費やし、最終的な二つの候補「Children of Midnight」と「Midnight’s Children」を何度も何度もタイピングしては、悩んでいたようだ。
現在、至る所にタイトルとヘッドラインが存在する。
フェイスブックやツイッター、そして、eメールの受信箱でも、誰かが魅力的なタイトルを用いて、注目を手に入れようと試みている。 ブログの記事や本を誰かに読んでもらいたいなら、時間を割いて、明確で、好奇心をそそるタイトルを作る必要がある。
サルマン・ラシュディは、本のタイトルがいかに重要かを理解しており、何時間もタイトルの選択に割いていた。
皆さんは、ヘッドラインにどれだけ時間をかけているだろうか?
チョコレートバーの味を1つのワードで伝えなければいけない仕事があるとする。もちろん「Delicious」(おいしい)では、報酬をもらえない。
これは、ある日の午後に、実際にラシュディが遭遇した状況である。エアがふんだんに詰まったイギリスのチョコレート菓子、エアロの新しいスローガンがなかなか浮かばず、パニック状態の同僚から、アイデアを求められたのだ。アイデアを出し合うなかで、信じられないことが起きた。クライアントから電話が寄せられ、すぐに結果を聞かせてほしいと言われたのだ。
この同僚は、ラシュディ曰く、「パニック状態に陥ると、やたらと汗をかき、何度も口ごもる癖がある」ようだ。クライアントから電話がかかってきた時、この人物は、「impossib-ib-ib-ible」(む、む、む、む、むりです)」と言った。
その瞬間、ラシュディに妙案が浮かんだ。同僚が汗をかきながら、モゴモゴと話を続ける中、「able」や「ible」で終わるワードを次々に紙に書き出し、「bubble」に置き換えていった。最終的にラシュディが選んだのは「Irresistibubble」であった(Irresistible(抵抗できない)+bubble)。このキャッチフレーズは、この電話から30年以上が経過した今もなおエアロのスローガンとして利用されている。
パニックが、創造力を活性化することがある。以下に、パニックを創造に活用する容易な方法を2つ挙げていく:
2008年のIAPI Advertising Effectiveness賞の授賞式で、ラシュディは次のように述べていた:
広告の素晴らしいところは、言葉を多用せずに、多くのことを伝えることが出来る点だ。限られた数の言葉、または、写真で、大きく主張する試みが必要である。しかも、時間も限られている。この全ての条件が、私には、とても、とても、とても、有効だと思える。
短い、シンプルな文章は、効果が高い。事実、読者は、作者の伝えたいことを理解するため、シンプルな文章によって、読者は作者を賢い人物だとイメージするにようになる。
5つの音節を持つワードを使って、複雑な文章を書く方が難しいと思うかもしれないが、現実には、少ないワード数で、言いたいことを伝える能力こそが、名人の証である。
(ラシュディが、もう少しオグルヴィの下で働いていたら、「とても」を幾つか省略していたはずだ)
オグルヴィ & メイザーに勤務する以前から、ラシュディは優れたライターであった。しかし、コピーライターのキャリアから、作家として成功するために必要であった厳しい規律を学んだ。ラシュディは、次のように説明している:
私は仕事のように小説を書いた。朝から働いた。期限を守った。広告業界に身を置いた経験が、プロとして執筆する上で存分に生かされており、この点には常に感謝している。
執筆においては、才能は関係ないと思っている。実践を積むか、積まないかが決め手となる。
高給取りのコピーライターであれ、楽しむためにブログを運営しているのであれ、ライターとして成長したいなら、仕事のように文章の作成に向かうべきである。
ラシュディが、Fresh Cream Cakesの広告の担当者に指名され、「Naughty. But Nice」(やんちゃ坊主。でも、素敵)と言うスローガンを提案したところ、クライアントは首を縦に振らなかった。しかし、一年後、オグルヴィ & メイザーを退社し、小説家になった頃、ラシュディが考えたスローガンは、ビルボードやテレビを含む英国の至る所で、見られるようになった。
ラシュディは、拒絶に負けなかった。また、小説家としての処女作が、出版社に却下されると、作家として成長することを心に誓った。先日行われたインタビューの中で、ラシュディは、このように話している:
私は、長い時間をかけて、学び、作家になった。作家になるには、編集者を見つける必要がある。それがダメなら、作品について正直な意見を述べ、恐れることなく「いまひとつ」だと言える人達を確保しなければならない。「いまひとつ」と言える人がいなければ、「素晴らしい」作品になるまで、どのように改善を重ねればいいのか分からないからだ。
サルマン・ラシュディは、デビッド・オグルヴィの下で働く前は、貧しい、売れない俳優であった。コピーライティングを辞める頃には、既に小説家デビューを飾っており、後世に残る名作を発表する直前であった。
コピーライティングとクリエイティブライティングを別物と考えるのは簡単だが、ラシュディは、この2つの間の境界線は、意外に曖昧だと言う点を教えてくれた。どちらも読者に新たな機会を与え、読者が世の中を異なる視点で見るように促す。
文芸に携わっているなら、コピーライティングに挑戦してみると良い。サルマン・ラシュディのように、かけがえのない経験を得られるかもしれない。
最後に、コピーライティングから、読者の皆さんが、どのような作文術を学んできたのかコメント欄で教えてもらいたい。
この記事は、Copybloggerに掲載された「About Writing from David Ogilvy」を翻訳した内容です。
コピーライティングというと短文に全てを込める世界で、小説とは世界観の構築から具現化まで同じライティングでも全く違う領域に感じますが、トップクラスのコピーライターともなれば、ベースの思考や手法には相当に通じるものがあるのでしょうね。記事自体は、一般論で共通点を絞り出したような何にたいしてもいえそうな内容ではありましたが、アウトプットの形は違えど、その背景で思考する世界やレベルは優秀な人であればある程、実はかなり共通する部分があるのかなぁ、、と、私もこれまで様々な業界の優秀な方にお会いしてきましたが、改めて感じさせられる記事でした。 — SEO Japan [G+]
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