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本記事は、米国のコンサルティング会社「Bisan Digital」の代表を務め、『Search Engine Marketing, Inc.』の共著者としても知られるBill Hunt氏によって執筆された、Search Engine Journalの記事『Decision Coverage: Why AI Recommends Some Brands And Not Others』を翻訳したものです。
SEO Japan編集部より補足:Decision Coverageは、もともとソフトウェアテストで使われる用語です。プログラム中の判定がすべての分岐を通ったかどうかを測る指標で、日本語では「判定条件網羅」や「分岐網羅」と呼ばれます。本記事ではこの語をマーケティングの文脈に転用し、ユーザーが意思決定の際に検討する要素を、自社がどこまで網羅的に示せているか、という意味で用いています。
前回の記事「When AI Takes The Click, Click Worthiness Should Guide Your Strategy(AIがクリックを奪うとき、戦略の指針となるべきはクリック価値である)」では、AIが顧客の最初の疑問に答える場面が増えていく中で、企業がどこに投資を続けるべきかを判断するためのフレームワークとして、クリック価値(Click Worthiness)という考え方を紹介しました。クリック価値は、顧客と直接やり取りすることが依然として意味のあるビジネス価値を生む接点はどこか、を見極める助けになります。そして、そこからは自然と次の問いが浮かび上がります。
目次
ほとんどの企業は、その答えをすでに持っていると考えています。自社サイトには、製品ページ、仕様を細かく選べる製品構成ツール、技術ドキュメント、価格、レビュー、仕様、そして自社が何を販売しているのかを記述した構造化データが揃っています。企業は「自社の製品が何であるか」を説明することに、非常に長けるようになりました。しかし、消費者が意思決定のために本当に必要としている情報は、欠けていることが多いのです。
Webサイト上の製品説明だけを根拠に購買を決める顧客は、ほとんどいません。顧客が判断の拠りどころにするのは、その製品が自分の課題を、他の選択肢よりもうまく、速く、簡単に解決してくれるかどうかです。AIの時代において企業は、製品が何であるかを説明する段階から一歩進んで、「なぜそれが特定の顧客にとって正しい選択なのか」を説明する意思決定の知識(decision knowledge)を外部に開示していかなければなりません。
企業がAIからの推奨を失うのは、製品情報が足りないからではありません。顧客の意思決定において自社を自信を持って適格だと判断するために、AIが必要としている情報を開示できていないからです。私はこうした基準のことを「適格性のゲート(eligibility gates)」と呼んできました。
この違いが、AIがある企業を他社より自信を持って推奨できるかどうかを、ますます左右するようになっています。
AI最適化に関する最も一般的な誤解の一つであり、新しいAIツールによってさらに増幅されているのは、企業は単にコンテンツを増やす必要があるという考え方です。すでに述べたとおり、企業は自社の製品やサービスを説明する情報をすでに大量に公開しています。製品ページには、寸法、仕様、素材、保証、価格、在庫状況、そして数十に及ぶ技術的な属性が説明されています。構造化データは、その同じ情報を機械可読な形で写し取っています。
マットレスを探している人は、コイルが何個入っているのかという質問から始めたりはしません。知りたいのは、寝ている間に蒸れないか、横向き寝でも体を支えてくれるか、肩の痛みを和らげてくれるか、追加の出費に見合うか、週末までに配送してもらえるか、といったことです。
旅行者が、アメニティのリストだけでホテルを比較することもまずありません。知りたいのは、その施設が家族連れに適しているか、観光地まで歩いて行ける距離か、近隣の他のホテルより高い料金を払う価値があるか、といったことです。
これらは、追加の製品仕様を求めているのではありません。最終的な意思決定を下す前に、不確実性を減らそうとしている行為です。こうした質問は、AIがある選択肢を他より自信を持って推奨する前に理解しておかなければならない、意思決定の変数を表しています。
この違いは、企業がAI最適化をどう捉えるべきかを根本から変えるものです。
大規模言語モデルは、単に事実を取り出しているわけではありません。複数の情報源から証拠を統合し、ますます複雑になる質問に答えています。すべての推奨は、顧客のニーズを評価し、利用可能な選択肢を比較し、トレードオフを検討し、提示された基準を最も満たす製品またはサービスを決定するという、一連の論理的思考プロセスを反映しています。
その確信は、製品が何であるかを理解するだけでは生まれません。AIはさらに、その製品はどんなときに推奨されるべきか、誰にとって適切なのか、代替案と比べてどうなのか、顧客はどのトレードオフを考慮すべきなのか、そしてそれらの結論を裏づける証拠は何なのか、までを理解する必要があります。
こうした知識を、ほとんどの企業はすでに持っています。それは、営業の会話、カスタマーサポートでのやり取り、購入ガイド、導入ドキュメント、エンジニアリングチーム、商品企画や品揃えを管理する仕組み、プロダクトマネージャー、そして社内の専門家の中に存在しています。
課題は、知識が存在しないことではありません。その知識が、AIが推論できる体系的な知識として整理され、つなぎ合わされ、外部に開示されることが、ほとんどなかったという点にあります。
AIビジビリティのモニタリングツールと最適化サービスに投資していた、あるBtoB SaaS企業の状況を見てみましょう。新しく上がってきたレポートは、予想外の事実を示していました。同社はあらゆる規模の企業を顧客にしているにもかかわらず、中小企業向けのソリューションを探すユーザーに対しては、ほとんど推奨されていなかったのです。経営陣は驚きました。中小企業は同社の顧客基盤のかなりの部分を占めており、しかも折しも、そのセグメントからのリード件数が減り始めていたからです。
同社が依頼していたGEO代理店が最初に立てた仮説は、オーソリティや第三者からの引用が不足しているのではないか、というものでした。いくつかの提案は、コミュニティへの参加や引用の追加を通じて、外部での露出を高めることに焦点を当てていました。しかし私は、オーソリティの話をする前に、もっと単純な質問を投げかけました。
「御社の製品が中小企業に適していることを示す情報を、これまでに何か公開していますか?」
その答えは、驚くほど少ないものでした。同社は多くの小規模企業を顧客に持っていたにもかかわらず、そうした企業が直面する固有の課題、彼らが得られる具体的なメリット、少人数チームでの導入にあたっての検討事項、同規模の企業からの推薦の声、成果を示すケーススタディといった情報は、Webサイト上にほぼ存在していなかったのです。
製品はどんな企業にも当てはまるものとして提示されており、なぜ小規模な組織に、あるいは大規模な組織にこそ適しているのか、という説明を同社は一度もしていませんでした。
同社を推奨から除外している、その統合された推論の中身をより深く理解するため、私たちは複数のAIラボに対して、選定の理由と判断に影響した基準を説明するよう求めました。そうして得られた基準と、推論の過程で生成されたクエリファンアウトの質問を精査していくと、一貫したパターンが浮かび上がってきました。会話は、中小企業向けの手頃なソフトウェア、少人数チームでも使いやすいソリューション、小規模な組織が優先すべき主要機能、競合製品同士の比較といったトピックへと広がっていたのです。これらの質問は、AIが推奨の適格性を判断する際に重要とみなした、意思決定の変数を明らかにしていました。
中でも、除外の理由としてひときわ目立つものがありました。
同社の製品は、一貫して「高度にカスタマイズできる」と説明されていました。エンタープライズ企業の購買層の中では、この特性は一般に競争優位と見なされます。ところが小規模な組織にとっては、AIモデルも顧客レビューも、その柔軟性をまったく違う意味に解釈していました。カスタマイズ性が高いことは、それだけ管理が複雑になることを示唆し、チームが小さく技術リソースも限られる組織にとっては、競合製品のほうが適しているように見せてしまっていたのです。実際、G2のレビューやブログ記事には、こうした機能を有効化できる専任の管理者がいる場合に最良の製品である、と明記されていました。まさにこの基準こそが、同社を推奨から除外していたのです。
SEO Japan編集部より補足:G2(g2.com)は、BtoB向けソフトウェアのレビュープラットフォームです。導入企業の規模や利用者の役職とともにレビューが公開されるため、SaaSの比較検討の場面で広く参照されています。
製品自体には、小規模企業に対応できない要素は何もありませんでした。それでも同社は、小規模企業の固有のニーズを理解していることを詳しく述べることも、設定が容易であることを示すことも、機能の豊富さが導入の妨げにはならないと伝えることもしていませんでした。この欠けていた証拠が、適切な推奨先としてAIが自信を持って認定することを妨げていたのです。
同社が抱えていたのは、オーソリティの問題ではなく、証拠の問題でした。ですから、多額の予算を投じてリンクを獲得したりコミュニティでの発信を強化したりすることは、有益ではあっても、本当の問題そのものではなかったのです。今や非常に具体的なコンテンツが手元にあり、どのコミュニティ上の言及が意図せず悪影響を及ぼしているのかも正確に把握できました。これにより、GEO代理店は小規模企業にとってのメリットと使いやすさを広めることに、力を注げるようになったのです。
このSaaS企業が直面した課題は、企業がAIへの対応度を測るための、これまでとは異なるものさしを必要としている理由を示しています。従来のコンテンツ指標が教えてくれるのは、どれだけ多くの情報を公開したか、です。構造化データのカバー率が教えてくれるのは、どれだけ多くの情報をコード化したか、です。しかしそのどちらも、特定の顧客の意思決定に対して、AIが自社の製品やサービスを自信を持って評価し、比較し、適格だと判断し、推奨するのに足るだけの証拠を開示できているかどうかは教えてくれません。だからこそ今、企業はより本質的な問いを立てるべき時に来ています。
「AIが自信を持って評価し、比較し、適格だと判断し、自社の製品やサービスを推奨するために必要な証拠を、私たちは開示できているだろうか?」
これこそがDecision Coverage(意思決定カバレッジ)の目的です。Decision Coverageは、AIが自社の製品やサービスを評価し、比較し、適格だと判断し、自信を持って推奨するために必要な証拠を、企業がどこまで完全に開示できているかを測る指標です。
Decision Coverageは、企業がどれだけの量のコンテンツを公開したかを測るものではなく、構造化データを実装したページが何ページあるかを測るものでもありません。測っているのは、AIが自社の製品やサービスについて推論を行うのに十分な証拠を、その企業が提供できているかどうかです。答えられていない顧客の疑問、裏づけのない製品の主張、欠けている比較、明文化されていないポリシー、説明されていないトレードオフ、想定されていない顧客のシナリオ。そのひとつひとつが、Decision Coverageの欠落を意味します。こうした欠落は、AIがその企業を自信を持って評価し、比較し、適格だと判断し、最終的に推奨する力を削いでしまいます。
Googleが最近Merchant Centerに追加したConversational Attributes(会話型属性)の拡張は、この変化をよく表しています。question_and_answer、related_product、variant_option、document_link、popularity_rankといった新しい機能は、製品を説明するという範囲をはるかに超えています。これらを合わせると、その製品はどんなときに推奨されるべきか、代替品とどう違うのか、どのバリエーションがどの顧客ニーズを満たすのか、購入前に顧客がよく尋ねる質問は何か、そしてそれを裏づける証拠は何か、をAIが理解する助けになります。
ひとつひとつを見れば、これらの追加は小さな改善に映ります。しかし全体として見ると、はるかに大きな転換が浮かび上がります。Googleは、販売者に「製品を説明してください」と求める段階から、「その製品を取り巻く意思決定の知識を開示してください」と求める段階へと、着実に移りつつあるのです。多くの点でこれらの追加は、経験豊富な営業担当者が顧客との商談の中でたどる思考のプロセスを、そのまま写し取ったものになっています。
皮肉なことに、Decision Coverageを高めるために必要な専門知識を、ほとんどの企業はすでに持っています。営業チームは顧客の反論を理解しており、カスタマーサポートチームは繰り返し寄せられる質問を理解しており、プロダクトマネージャーは互換性や組織ごとの機微を理解しており、オペレーション部門は受注処理や配送を理解しています。知識はすでに存在しているのです。本当の課題は、そうしたバラバラに散らばった専門知識を、AIが評価し信頼できる一貫した知識モデルへとまとめ上げることにあります。
GEOのパフォーマンス向上をチームスポーツとして取り組み、社内の専門知識の厚みを活かし、すでに手元にある優れた情報を作り直して届けられる企業が、勝者になっていくでしょう。
企業がAIからの推奨を失うのは、製品情報が足りないからではありません。AIが自信を持って評価し、比較し、適格だと判断し、推奨するために必要な証拠を、開示できていないからです。
企業はいったん立ち止まり、課題が本当はどこにあるのかを把握したうえで、顧客の重要な意思決定のひとつひとつが、AIが取り込み、解釈し、検証し、信頼し、説明できる証拠に支えられている状態をつくる必要があります。自動生成コンテンツの物量勝負に加わることが、進むべき道ではありません。
SEO Japan編集部より:
これまでのコンテンツ制作は、キーワードを起点に、その検索意図に応えられる内容を用意する、という考え方が中心でした。今回の記事で問われているのは、少し違う角度です。ユーザーが何かを選ぶときに気にする要素について、自社がきちんと根拠を示せているかどうか。出発点がキーワードから意思決定の材料へと移ると、作るべきコンテンツの中身も変わってきます。そして記事の事例が示していたように、自社の特徴や強みは十分に発信しているつもりでも、外から見たときにはまったく違う受け取られ方をしている、ということも起こり得ます。社内では強みだと考えていた要素が、ある層にとってはむしろ懸念材料として読まれていた。これは決して他人事ではないかもしれません。
まずは実際に、AIに聞いてみるのがおすすめです。ユーザーが自社のようなサービスを選ぶ際にどんな要素を検討するのか。そしてその文脈の中で、自社がどう評価されているのか。この2つを把握するところから、始めてみてはいかがでしょうか。
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